ふぁみモデル発売記念!WOODLINEヘッドレス開発担当職人インタビュー

その可搬性や利便性の高さから多くの現場のミュージシャンからのの支持を集めるヘッドレスベース。Bacchusブランドの初となるヘッドレスベース「WOODLINE-HEADLESS」 が2018年に発売され、その後H.J. FREAKSのシグネチャーモデル、そしてこの夏発売されるふぁみのシグネチャーモデルWOODLINE5AC-HL Famiなどの新機種に発展しました。

今回はWOODLINE5AC-HL Famiの発売を記念し、その元となったWOODLINE-HEADLESSを開発した飛鳥ファクトリーの職人谷口翔太に、開発時の工夫などを聞くためにインタビューを行いました。

職人 谷口翔太プロフィール

 2012年、ギター製作の専門学校を卒業したのち、手工による高品質なギター製作で知られる飛鳥ファクトリーに入社。木工加工を担当し、MomoseやBacchus Handmade Seriesの製作に携わる。その腕とセンスを買われ、イベントなどの特別な機会のみに生産される特殊仕様のワンオフモデルである『Momose Premium Collection』(*1)の製作ビルダーの内の1人に抜擢される。谷口の作る独自のアイディアを盛り込んだPremium Collectionは多くのユーザーからの支持を集めた。
 2017年、Bacchus WOODLINEのヘッドレスバージョンの開発を任され、試行錯誤を繰り返しながら第一弾ヘッドレスモデルであるWOODLINE-HEADLESSを完成。その後、後継機種への開発へとつながった。


―今日はヘッドレス版のWOODLINE(以下WOODLINEヘッドレス)の開発秘話や、こだわった点に関して聞かせて頂きたいと思います。まず最初にこのヘッドレスベースの開発が決まったときの話を聞かせてください。

谷口: 最初に話が出たの2017年の秋頃だったと思います。2018年の春の大商談会(*2)向けにWOODLINEのヘッドレスバージョンを作りたいという要望を受けました。私自身ヘッドレスのギターを所持していましたし、元々ヘッドレス構造の持つ近代的な形状やその利便性に非常に関心を持っていたので、 話を受けて意欲を持ちました。

―ヘッドレスにするとパーツのタイプや全体のバランスも大きく変わるため、中々難しい点もあったかと想像します。開発に当たってこだわった点、苦労した点など教えてください。

谷口: まずはBacchusの定番品であるWOODLINEモデルをヘッドレス化するというテーマだったので、面取り半径の小さいスリムなボディ形状や、ヒールカット、エルボーコンターの形状など、WOODLINEらしさをしっかり残すということを念頭にデザインしました。ヘッドレスの機構を取り付けるのでボディ下部の形状はどうしても変える必要がありましたが、そこも含めてWOODLINEにモダンな要素を付け加えたような見た目になりました。WOODLINEの持っている抱えやすさやボディバランスの良さを感じて頂けるボディシェイプになったかと思っています。

―プロトタイプが2018年の初頭に完成して、それから本生産まで微調整を繰り返したと聞いています。主にどういったところに手を加えましたか?

谷口: 一番指向錯誤したのはサウンド面の追求です。プロトタイプが完成して弾いてみたのですが、元々のWOODLINEと比較すると味気が無いサウンドでこのままでは商品化出来ないなと。構造上の理由もありますが、倍音成分が少ないような物足りないサウンドと感じました。そこから細かな調整を繰り返して、サウンドの変化を試して行きました。

プロトタイプの内の1本。ネックアングルを微調整するためのシムの貼り付けややブリッジ部分の加工など試行錯誤の後がうかがえる
※注 製品版にはシムは挟まれていません。

―具体的にどのような点を調整していったのでしょうか

谷口: まずはヘッドピースからナットへの角度と距離です。距離を伸ばしナットへの弦の角度を調整して倍音成分を増やすように改善しています。 また、ネックアングルにも微調整を繰り返してサウンドの変化を注意深く観察しました。 あまり詳しくは言えないですが、普通のベースと比べると少し変わったネックアングルに設定しています。結果として倍音成分がやや増えて、より自然な音の立ち上がりと減衰をするようになり、プレイヤーのニュアンスをくみ取ってくれるようなサウンドになったと思います。

一般的なヘッドレスベースの場合、構造上サスティンが短くなったり詰まり気味の音になる傾向があると感じていますが、それに比べると良い意味でヘッド有りのベースの音に近づいたと思います。結果としてジャンルを選ばずに使って頂ける音になったと考えています。

―そうやって完成したWOODINEヘッドレスですが、お客さんやミュージシャンからはどんな反応がありましたか?

谷口: 2018年の商談会での初披露時はお陰様で楽器店さんからも良い反応を頂きました。その後ベーシストのH.J.FREAKS(*3)さんが来社した際に気に入って下さって、それからWOODLINEヘッドレスを使ってもらえるようになったことは嬉しかったです。まず何も説明せずに試奏してもらったのですが、こだわったポイントのネックアングルの件をすぐに指摘されて、流石H.Jさん!と思いました。

H.J. FREAKSの試奏を拝聴する飛鳥ビルダーたち。一番手前が谷口

―この時はヘッドレスベースの良さや音作りの話を真面目に語って下さって、非常に勉強になりましたね。普段の姿とはギャップがありましたが…笑。
それからH.J.FREAKSさんのシグネチャーモデルも開発されましたが、どんなこと気を付けて開発しましたか?

谷口: H.J.さんのモデルの生産が決まって、今までと比較するとまとまった本数を生産する必要が出てきたため、生産効率を上げられるように社内体制の整備を行いました。
H.J.さんのリクエストでトップジャック方式、ミニスイッチが二つある特殊なコントロール配置だったので、キャビティの形状を変えなければならず、新しいキャビティのデータ作成はHeadway Customshopビルダーの安井さん(*4)の力を借りました。

H.J.FREAKSシグネチャーモデル「WL5HL-H.J.FREAKS」。コントロールにはトップジャック、キルSWなどH.J.FREAKSの要望を反映した。

―H.J. FREAKSシグネチャーモデルに続いて今年の夏にはふぁみ。シグネチャーモデル「WOODLINE5AC-HL Fami」が発売されます。このモデルの開発にあたってこだわった点を教えてください。

谷口: まずはカラーの開発ですね。ふぁみさんは万年筆の色が好きだということで、実際の万年筆の色の中からお気に入りを何色か送ってもらい、塗装職人と相談しながら色を調合してもらいました。何色かサンプルで塗って比較してもらった後、最終的に現在採用されている「ボルドーパープル」に決定しました。ピックガード材もボディカラーに合う様に、飛鳥ファクトリーの社長がピックガードのメーカーと話をすり合わせて一から作ってもらいました。

ふぁみシグネチャーモデル開発時、最終選考に残った3色。中央の「ボルドーパープルオイル」が結果として採用された

―指板にも天然の紫色が特徴のパープルハートを使って、かなりインパクトのある外見になりましたね。

谷口: パープルハートは逆目があって実は加工するのは少し大変な材なんです。でも密度も高くサウンドの立ち上がりの良さにも貢献し、指板材として優秀だと思います。

天然の紫色が特徴のパープルハート指板。12Fのインレイは「ふぁみ。」と音楽記号の「フォルテ」のダブルミーニングとなっている。

―ふぁみ。さんやH.J.FREAKSさんのようなベーシストにヘッドレスベースを使ってもらっていることに関してどう感じていますか?

谷口: シンプルに嬉しいですし、より多くの人にBacchusブランド、Bacchusのヘッドレスベースの存在を知ってもらえるきっかけになれば良いなと思います。常づね「アーティストやユーザーに使ってもらって初めて楽器は楽器として完成する」ということを考えていました。どんな楽器でも演奏者が使ってくれる中でその真価が見つかるものだと思っています。

―WOODLINEヘッドレスのユーザー、関心を持ってくれている将来のユーザーに向けて一言お願いします。

谷口: 既に持ってくださっている方には、本当にありがとうございますとお伝えしたいです。検討して下さっている方には、先にも言いましたがサウンドや抱えやすいボディ形状などこだわりが多いモデルですので、難しく考えずに一度試して見て頂けたら嬉しいです。取り回しの良さ、軽さ、運びやすさなどは、実際に現物を見たり持ってみると実感して頂けると思いますので。

ヘッドレスというと特殊なイメージがありますが、WOODLINE HLに関しては汎用性が高くポップスやロック等も含めて色々なジャンルで使えると思います。自分としては職人として初めて、まっさらな状態から先輩職人の意見など聞きながら作り上げたモデルなので、ぜひ大事に弾いてもらえると嬉しいです。


本記事にて紹介されたモデル

Bacchus Handmade Series WOODLINE5AC-HL Fami

Bacchus Custom Series WL4HL-H.J.FREAKS

Bacchus Custom Series WL5HL-H.J.FREAKS

(*1) Momose Premium Collection
通常のレギュラー生産では使用出来ない特殊な仕様や数の少ない希少材を用いて作られる1本物のライン。イベントや展示会などの特別な機会にのみ製作、発表される。(Momose Premium Collectionギャラリー

(*2) 大商談会
ディバイザーが2016年より毎年5月に開催している、業者向けの新作・限定品発表会。2020年、2021年はオンライン開催を行った。
ディバイザーイベントアーカイブ

(*3) H.J.FREAKS
2000年代中盤よりニコニコ動画やYouTubeにベース動画の投稿を開始。その強烈なビジュアルと常人離れしたテクニックによって一度見たら忘れることのできないインパクトを見る者に残してきた奇才ベーシスト。2019年Bacchusよりシグネチャーモデルが発売される。
H.J. FREAKS アーティストページ
H.J. FREAKS シグネチャーモデル特設ページ

(*4) 安井
ディバイザーの製作するアコースティックギターブランド「Headway」を担うカスタムショップビルダー。