インレイ職人が語る!STR15周年モデル#500
ディバイザー大商談会にて発表されたSTRブランドの15周年記念モデル、そして500本目のカスタムショップベースである『DLS647.5 #500』は、随所に職人のこだわりが詰め込まれた特別中の特別の1本となりました。
このモデルに込められた職人の思いや創意工夫を解き明かすために、今回はインレイ製作を担当した飛鳥工場の職人「吉田幸広」にインタビューを行いました。
飛鳥ファクトリー 吉田幸弘
―今回の#500はかなり凝ったデザインのインレイワークが特徴ですが、このデザインはどういった流れで決まっていったのでしょうか。
初めに社長(※STRカスタムショップビルダー八塚悟)から受けた要望が、「インパクト」をテーマにデザインしてほしいということでした。色々と考えた中で漠然と自分の好きなモチーフである「砕け散るガラス」がこのテーマにはまりそうだなと思って、デザインに着手した感じです。
―抽象的なイメージを形にするところから始まったんですね。
そうですね。白蝶貝とかアバロン貝を使って砕けちったガラスを表現したらマッチしそうだなと思って、実際に素材の雰囲気をイメージしながら画を描いていきました。今回はとにかく最高の材料を使って派手な物にしたいという要望もあったので、パーツが多い中で全体のバランス感を整えたり、カケラの位置を微調整したりも大変でした。下描きを一度社長に提出したのですが、一発では決まらなくて、どう発展させるか揉んでいく時間がしばらくありました。
―下描きの段階から完成形に至るまでどのくらい修正を重ねたのでしょうか。
80%くらい大まかな部分は下描きをそのまま活かしたのですが、残りの20%くらいの部分を詰めていくのに時間がかかりました。何かが足りないなという話になって。テーマは表現できていましたが、これまでSTRが作って来た楽器とのつながりとか、ブランドらしさみたいな物がどこか足りないなという印象でした。やはり15周年で500本目のベースなのでこれまでの蓄積とか歴史も表現できる物にしたいなと。しばらく考えた結果、社長から新たに鳥のモチーフを追加したいという話が出てきました。
―ボディ裏に入っている鳥のインレイですね。
そうです。工場の名前が「飛鳥」ということもあり、鷹など飛んでいる鳥のモチーフはこれまでも節目となるモデルで結構使われてきたんです。既にあったガラスが砕け散るモチーフと融合させて、鳥がガラスを突き破って飛んでいく様子を描こうと社長と話していく中で決めました。
―飛鳥工場らしさが最後に追加されたということですね。
そうですね、最初は社長の持っていた抽象的なイメージから始まったのですが、それだけではなくて上手く節目のモデルっぽい所に落ちつけたなと思います。遊び心も盛り込んでいて、ボディの前面に飛び込んだ鳥が、ボディを貫通して裏から飛び出してくるという構造のデザインになっています。表の穴と裏の穴の位置も合わせているんです。ここは手に取って裏返してみて欲しいですね。
―指板上にもインレイのパーツが非常に多いですが、ポジションマークとしての役割はどうやってデザインしましたか?
いかにもポジションマークといった感じの表現はしたくなかったので一見規則性が無いように見えるかもしれませんが、要所要所にアクセントを入れているので、そこを目印にして頂ければと思います。
―デザインが決まった後は、インレイを作ったり埋め込む作業になると思います。今回は普通のベースやギターと比較するとパーツもかなり多かったと思いますが、やはり大変でしたか?
かなり苦労しました。飛鳥が作っているHeadwayやMomoseなどの他のブランドでもインレイが豪華なモデルが近年よく生産に入りますが、そういったモデルと比べても10倍くらい時間がかかったと思います。特に拘った点としては一つのカケラを表現するのにも、複数の貝の模様を合わせて立体感が出るようにしたことです。色の違いで影を表現したりしています。
―これだけ貝のパーツが多いと、材料の選定だけてもかなり時間がかかりそうですね。
そうですね。あとそれぞれのインレイのパーツに輪郭を出すために0.5~0.8mmくらいの太さの黒い縁どりがしてあるのですが、これは実はまず最初にエボニーを埋め込んで、それから一回り小さい外周でもう一回掘って、そこに貝を埋め込むという行程を行っています。だから一つのインレイに対して2回掘っているので、それだけでも倍時間がかかっているんです。かなり気が遠くなるような作業でした(笑)
―飛鳥社長に話を聞いたときにナチュラルカラーでインレイの多いモデルを作ることは大変だと聞きました。
まさにその通りで、ものすごく気を使って加工していきました。例えばインレイと木部の間に隙間が出来てしまったりだとかそういうミスをしてしまったとしても着色でカバーできませんので。神経を使うので時間もかかりますしこういった記念となる1本でない出来ない仕様だと思います。
―製作を振り返ってみて今はどんな気持ちですか。
本当に大変でしたけど、デザイナーとしても職人としても腕を試されているなと感じて全力で挑みました。ここまで大きな仕事を任して頂けるようになって、ようやく信頼されてきたなと自信にもなりましたね。完成したモデルを見たときには本当に充実感を覚えました。
―#500の未来のオーナーに向かって一言お願いします。
使用した材料、掛けた時間や手間、デザイン面など色々な意味で再現不可能な1本となりました。ビルダーの社長と今の飛鳥ファクトリーの全力が込められていますのでぜひ大事に弾いてもらいたいです。