百瀬恭夫 永眠のご報告

有限会社飛鳥の名誉技術顧問、そしてHeadwayブランドのマスタービルダーである職人の百瀬恭夫が2024年3月19日に永眠致しました。

昨年8月に癌が発覚し、治療に専念するために有限会社飛鳥を勇退し、約8か月間闘病を続けてまいりました。
当初主治医からは余命2ヶ月の宣告を受けておりましたが、余命宣告の時期を過ぎた後でも体調が良いときには百瀬は度々工場と事務所に顔を出し、その精神力に全社員が驚かされました。自身の身体を気遣うより、最後まで愛弟子達とギターのことを第一に考えており、職人として、そして一人の人間として我々社員に多くの学びを残しました。

有限会社飛鳥および株式会社ディバイザー両社員一同深い悲しみを抱えながらも、百瀬恭夫が後輩達に残したHeadwayの原点、信念と誇りを受け継ぎ今後も百瀬が目指したギター製作に邁進して参ります。

今後もHeadway及び弊社製品を引き続き御愛顧承りますようお願い申し上げます。ユーザーの皆様及び関係各位の皆様にこの場をお借りして生前中のご厚誼に深く感謝申し上げます。

百瀬恭夫について

職種:弦楽器製造工
生年月日:昭和19年1月5日
没年: 2024年3月19日(享年80歳)
有限会社 飛鳥:名誉技術顧問

主な職歴
昭和37年:有限会社井田家具
昭和39年:富士弦楽器製造株式会社
昭和44年:有限会社 林ギター 技術課
昭和52年:ヘッドウェイ株式会社 技術部長
平成16年:有限会社 飛鳥 専務
令和5年:有限会社 飛鳥 退職

安井雅人、百瀬恭夫、降幡 新

Headwayについて

百瀬がブランド立ち上げ時より制作に携わる、弊社アコースティックギターのブランド名です。
昭和52年創業当時は「ヘッドウェイ株式会社」として社名でもありましたが、やがて販売元としての「株式会社ディバイザー」製造元としての「有限会社飛鳥」に分化・発展しました。
Headwayのアコースティックギターは有限会社飛鳥製の高級機種から海外製の廉価モデルまで広い価格帯をラインナップしており、百瀬製作の物を含むカスタムシリーズはHeadwayブランドの最上位機種です。残る二人のカスタム職人、安井雅人と降幡新が百瀬の精神を受け継ぎカスタムシリーズの製作を続けるとともに、Headwayブランド全体の技術管理を行ってまいります。

木材によって僅かな削り込みを変える

平成27年度受賞 信州の名工

平成27年には百瀬は卓越した技能を持ちその分野で県下第一人者と目されている職人として、長野県知事より「信州の名工」(卓越技能者知事表彰)を受賞致しました。この賞は技能者の技能向上意欲の増進、技能水準の向上及び技能者の社会的評価の高揚を図ることを目的として昭和45年から実施しており、令和4年度までに1,060名の技能者が表彰されています。

平成27年度「信州の名工」百瀬恭夫

20歳よりギター製作の道に入り数十年間をギター職人として歩み続けた百瀬の技能が認められ、「信州の名工」に表彰されました。

アコースティックギターに留まらなかった百瀬の活躍

百瀬はアコースティックギターのみに留まらず、エレキギター・エレキベースの製作にも多く携わりました。
当初はアコースティックギターの生産工場として始まった株式会社ヘッドウェイでしたが、エレキギターやエレキベースの人気が高まった80年代にはエレキギターへの製造に転換をはかり、百瀬が中心となってエレキギターの製造方法の基礎とブランドの確立に努めました。

百瀬による治具の考案や加工工程の確立は今日に至るまで有限会社飛鳥工場の礎となり、エレキギターの部門においても後進に技術とともに百瀬のギター作りの精神が受け継がれています。

妥協を一切許さない緻密な手仕事

こうして百瀬が携わるギターは高い品質でありながらも手の届きやすい価格を実現しており、後の「Bacchus Handmade Guitars」や「Momose Custom Craft Guitars」に繋がっていきます。

今年30周年を迎えた「Bacchus Handmade Guitars」ブランドの名付けも百瀬がおこなっており、その由来は自身が持っていた外国語辞典を引用し「音楽の神」と記載のあった「Bacchus」がブランド名の由来になっています。
後日談でBacchusは「酒の神」であると指摘を受けることもありましたが、当時の辞典を会社に持ち込み由来の証明をしたのは社内では逸話となって語り継がれています。そんな、生真面目で温かみのある人柄をもったことがギター職人としても人間としても百瀬の魅力でした。

2000年代に入る頃にはビルダーとしての百瀬の認知が広がり注目も高まっていたことから、2002年には自身の名を冠したエレキギター・エレキベースブランド「Momose Custom Craft Guitars」を始動しました。
Momose Custom Craft Guitarsの主要な生産工程は後輩である職人達に託しながらも、技術監督を続けながら22年間ハンドメイドを軸としたエレキギター・エレキベースを作り続けてまいりました。百瀬亡き後も百瀬の築き上げた製造方法を受け継いだ職人達の手によって、Momose Custom Craft Guitarsは生産を続けていきます。

実際の「Bacchus表記を記した」辞典

百瀬恭夫 ギャラリー

百瀬恭夫が話していたこと

これまで長い期間にわたり、多くの方々に支えられ百瀬はギターを製作してきました。亡くなるまでの数ヶ月間も、入退院を繰り返しながらアコースティックギターの新ブレーシングを考案しようと勇んでおり、資料を見返しては熟考していました。
仕事から離れてもギターのことを考えずにはいられない、その熱量は百瀬恭夫の生きた証であり、職人としてのギターへの向き合い方、飽くなき探求心を最後に今一度私たちに思い起こさせてくれました。

そして最後に、百瀬が生前よく口にしていた言葉があります。
「ギターは大切にして欲しいけど、保管して飾るより少しでもいいから毎日のように弾き込んで、その人の鳴りを育てて欲しいな」
長い年月ギター製作をしてきた職人百瀬だからこそ言える本心だと思います。

Headway発足時から変わらない理念である、丈夫で長い期間安心して弾ける「育てるギター」。

どんなときも百瀬恭夫のアコースティックギターは「百瀬恭夫の音色」「百瀬恭夫の質感」であることは変わりませんが、それを育てていくのは手に取っていただいた皆様です
百瀬恭夫が人生をかけて作ったギターを大事に弾き込んでいただければ幸いです。